白いクロスと月舟

忘れられない記憶も、未来の種になる。

ある数年、京都のお寺や土地に強く惹かれ、毎週のように東京から東名を飛ばし
通っていたことがありました。
奥行きのある京都でひらいた宇宙は、内側の豊かさのひとつになりました。

そのことを知っていた友達たちが、今年と同じように
誕生日が十五夜と重なる年に、サプライズを京都に用意してくれました。
何も知らない私は、行き先もわからず車で嵐山まで連れて行かれ
そこで着物に着替えて、同じように着物姿で勢揃いしている友達に迎えられました。
お寺で瞑想して、豆腐懐石を頂き、大きな月が昇る街を歩く。
夜には、あるお寺の池に浮かぶ舟に乗り十五夜を眺めるという
特別な時間が待っていました。
そのお寺では、中秋の名月に観月祭というお祭りをします。
着物で小さな龍の舟に乗り、お抹茶を点てて頂き、池と空の黄金の月を眺める。
その昔、嵯峨天皇がこうしてこの舟の上から月を眺めたところから始まったそうです。

最後に白い花が好きな私に用意してくれたのは、大きな銀木犀の花の木でした。
月に照らされて、白く発光しているような十字の花。
形は金木犀と同じ白い花々が小さく集まり、甘くほんのりと香っていました。
月夜に、祈るような花の姿、鈴虫の声。
その夜は、花のそばで眠りました。

記憶の履歴は細胞の中に存在していて、ハワイで暮らす今の私にも
あの時の着物のシックな柄の曲線や、銀木犀の儚い花びら、
舟が池の月の上と空の月の下をゆっくり通過する光景が体感として再生されます。
有形無形の日本の秋を保存して、残りの旅を楽しもう。

ハワイは、ハロウィンのジャックオランタン用のパンプキンを、
自ら畑でピックするパンプキンパッチで賑わっています。
来週のハロウィン、来月のサンクスギビング、12月のクリスマス。
星は巡り、ホリデーシーズン到来です。

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