
幻想、夢、現実、五感、天国。
何もかも境がなくて、目の前の世界は心のかたちのまま現れる。
私が生まれた年の映画を、ずいぶん前に
バースデープレゼントで貰ってから、何度も観ています。
邦題は「ミツバチのささやき」。
小さなアナとイザベルの心の窓。
聴こえない音も、見えない世界も、天空の香りも
お姉ちゃんの言った嘘も、「ほんとう」として存在する世界。
目を瞑り心の中で話しかければ精霊と友達になれると信じるアナ。
ハッとするような煌きも、どうしようもなく怖かったものも
子供だった自分の世界へ、あっという間に招き入れていた自分と重なるのです。
1940年頃のお話。
スペイン内戦終結直後の背景は、独裁政権の暗い世界。
アナとイザベルの父親が研究しているミツバチの生態系や
外の世界とのつながりに、ひっそりと暗い影を織り込んでいます。
だけど、彼女たちの幾度となく交わされるささやき声や
アナの瞳の色の深さは、魔法のようにその冷たいものを忘れさせてくれる。
姉妹が通っている学校に子供たちが集まる様子がミツバチのようだったり
父の枕元に2つの鳥の折り紙がアナとイザベルを思わせたり、
黄金の地平線に雲の影が映りゆく様子。
ビクトル・エリセ監督の映像は、童話を読みながら心で想像しているような
気持ちになります。
月の下、ひらかれた窓からアナは瞳をひらいて空をみつめます。
「わたしはアナ」
子供の心が混乱しないように、本名で演じたアナとイザベル。
演じることのできない無垢なものは、ほとんどのことを包み込み、
忘れさせる力がある。
自分からほんの少しずれてしまう時、アナの瞳が映した世界を思い返すのです。
