
20年ぐらい前の話。
姉妹のような、ほとんど一緒に暮らしていた友達がいます。
今は、お互い海外で暮らしているからあまり会えない。
カフェにいると、素知らぬふりして隣に座って私が驚くのを待つ彼女。
私の恋のことで、酔っ払って椅子を蹴飛ばして泣きわめく彼女。
同じ歳だけど愛しい妹のような人。
10代の頃から、あらゆるときめくことを一緒に試した友達でした。
私たちはその頃都心で暮らしていて、都内をぐるぐるぐるぐる忙しく、
遊んで働いて、学びつつ、笑っては泣き、叫んだり。
いい大人のようで、2人でいるとまるで子供でした。
彼女は、私の暮らすマンションに溶け込んでいました。
私よりもリラックスしていて、泳いでいるような澄んだ寝顔も懐かしい。
そんな私たちには、ある儀式がありました。
そのマンションの天辺に上り、イヤホンから流れる
各々の選ぶ爆音の中に立ち、東京を眺めるのです。
理由やタイミングは、なんでもよかった。
東京タワーや高層ビル、首都高にレインボーブリッジ、
遠くには横浜のベイブリッジ。
日の出も夜景も、雪が東京に吸い込まれていく様子も、
流星群や真っ青な空に飛行船が飛んでいる日も。
私たちは別々に、丸い星に立っていることのわかる、
円状の東京を眺めていました。
当たり前のように一緒にいられる時間が、最後の日。
私たちはやっぱり、天辺から雨の東京を眺めました。
視界が傘で遮られるのが嫌で、お揃いのレインコートを着て、
グレーのしっとりした雲から降りてくる雨粒に打たれ続けました。
「今まで出会った人たちがこの見えている景色の中に無数にいて、
きっと私たちが一番最初にこの雨に触れてるね。
同じ雲の下で生きてるって幸せだね。」
あの頃は、いつか別々の国で暮らすなんて考えもしなかった。
そうだね、同じ雨を感じられることは幸せだった。
その気持ちを知っているから、離れていても幸せなのかもしれない。
過去と未来を携えて、今を生きる私たち。
あの日の雨の余韻を、夢を見るように今も思い出します。
